2016年5月19日

TDLポリパラ挿入歌「Toia Mai te Waka Nei」は、ワイタンギ条約締結100周年に関する歌なのか? 考察まとめ

ニュージーランドのマオリ族の歌「Toia Mai te Waka Nei」。

東京ディズニーランドで2016年1月まで公演されていたショー「ミッキーとミニーのポリネシアン・パラダイス」の挿入歌です。

ショーの中ではたかだか1分半程度しか演奏されない短い曲ですが、背景を調べていくうち、「ワイタンギ条約の歴史と密接に関わっている奥深い歌なのではないか?」と考えるようになりました。

資料が少なく、わたしの背景知識も未熟で手探り状態ではありますが、調べてわかったことをここにまとめようと思います。

  1. Toia Mai te Waka Neiの歌詞の内容
  2. ワイタンギ条約100周年に作られたカヌーの歌だと推測できる理由
  3. なぜ明るく前向きな歌詞なのか?
  4. 今後の課題3つ

とにかく資料が少ない! けれど、ワイタンギ条約100周年と関わりが…?

東京ディズニーランドのショー「ミッキーとミニーのポリネシアン・パラダイス」で演奏されていた、「Toia Mai te Waka Nei(トイア マイ テ ワカ ネイ)」。

おそらく読者のみなさんがそうであるように、わたしもショーを見るまでメロディーもタイトルも知りませんでした。

Youtubeで原曲を聴きたいなーと思って調べていくうち、歌詞が知りたい、誰が作った歌なんだろう?…とたくさんの疑問がわいてきました。

が、しかしそんな疑問もすぐには解消されず。なぜなら資料がほとんどないからです。

歌のタイトルで検索をかけても、日本語の資料は皆無。

英語では、ニュージーランド音楽の解説を載せている「NZ Waiata Poi」というサイトがヒットするけれども、ニュージーランドの歴史背景を理解していないと読み解けない内容でした。

そこで、上記の英語サイトで出てきたキーワードを日本語で検索しながら、「Toia Mai te Waka Nei」について調べてみたところ、この歌は、

「ワイタンギ条約の締結100周年記念に作られた、戦闘カヌーに関する歌」ではないか?という結論に至りました。

そう考えられる理由を以下に記します。

Toia Mai te Waka Neiの歌詞の内容

手始めに、この曲の歌詞の内容を紐解いてみましょう。

英語訳を参考に、日本語をつけてみました。

文化的背景が理解できていないので、うまく訳せていない場所もあるかもですが。

Toia mai te waka nei
カヌーを引っ張って運ぼう
Kumea mai te waka nei
カヌーを引っ張って運ぼう
Ki te takotoranga i takoto ai
ここ、休憩地点まで
Tiriti te mana motuhake
条約は私たちに自立性を与えてくれた

Te tangi a te manu e
鳥の鳴く声
Pipi-wha-rau-roa
ピーピーワウロア(鳥の名前)
Kui! Kui! Kui!
クイクイクイ!(鳥の鳴き声)
Whitiwhiti ora!
世の中がよりよくなる合図さ
Hui e, taiki e.
さぁ一致団結して取り組もう

ワイタンギ条約100周年に作られたカヌーの歌だと推測できる理由

歌詞を見ても何のこっちゃと思うかもしれませんが、なぜ「ワイタンギ条約の締結100周年記念に作られた、戦闘カヌーに関する歌」と推測できるのか、解説します。

歌詞の「Triti」はワイタンギ条約を指している

1番の最後の歌詞に「Tiriti」という言葉が出てきますよね?

これは英語で言うところの「Treaty(条約)」のこと。

NZ Waiata Poi」によれば、この「Tiriti」というのは、1840年にマオリ族とイギリスの間に締結された「ワイタンギ条約」を指すようです。

作詞者の人間関係や時代背景が、100周年記念行事のエピソードと一致する

Waitangi National Trust」より引用
英語サイト「NZ Waiata Poi」によれば、この歌「Toia Mai te Waka Nei」が書かれたのは1940年。

ちょうど1840年のワイタンギ条約締結から、100年後のことです。

ちょっとこの「100周年」というワードが気になったので調べてみました。

すると「水岡ゼミ巡検報告」というサイトに、「現在観光地となっているワイタンギという場所に、条約100周年を記念して作られた戦闘カヌーが展示されている。これはテ・プエアというマオリ人女性の指示によって作られた」と書いてあるではありあませんか!

しかも、英語サイト「NZ Waiata Poi」には、

「Toia Mai te Waka Neiは、ピリ・ポウタプ(?)というカヌー技師が、テ・プエアという人の指示によって作詞した曲です。(中略)その戦闘カヌーは現在ワイタンギ博物館に展示されています」的なことが書いてあります。

「ワイタンギ条約100周年」「戦闘カヌー」「テ・プエア」などのキーワードが2つのサイトで一致しているので、「Toia Mai te Waka Nei」はこの100周年に作られた戦闘カヌーに関する歌であると推測できるでしょう。

このカヌーは、長さ35メートルで約80人乗りの大型カヌーだそうです。

なぜ明るく前向きな歌詞なのか?

次に、なぜこの戦闘カヌーの歌が「民の一致団結をうながす明るい曲なのか」紐解いて行きます。

鳥の名前は「夏」の象徴で、明るいイメージがある

2番にピーピーワウロアという鳥の名前や鳴き声が出てきますが、「NZ Waiata Poi」によれば、これはニュージーランドに暖かい時期だけやってくる渡り鳥のことだそう。

夏の象徴として語られる明るいイメージの鳥だそうです。

この曲の中でも、ピーピーワウロアの「クイクイクイ!」という鳴き声が、世の中がよくなっていく合図として描かれています。

ワイタンギ条約とは、マオリ族と英国が結んだ条約

で、本題の「なぜ民の一致団結を促す明るい歌詞なのか?」という点ですが、それは「ワイタンギ条約」の歴史を紐解くと明らかになります。

ざっくりまとめて言うと、「ワイタンギ条約により新しい1つの国ができ、新時代の幕開けだったから」ということではないかと推測しています。

ワイタンギ条約の内容と歴史

ワイタンギ条約についてぐぐってみたら、それまでバラバラだった各マオリ族の首長と、イギリスの間で結ばれた条約のことだそう。

1980年の締結によりニュージーランドは、イギリスとマオリの1つの国になったとのことです。

ただ、この「ワイタンギ条約」は英語ベースに書かれた条約であったため、マオリ語に翻訳した時に生じた解釈の違いが問題になったようで。

この解釈の違いがきっかけで、ニュージーランドではマオリ族の間で30年にも渡る反乱が勃発してしまいました。

「ワイタンギ条約」が発端で起きた反乱なのに、イギリス側はそのマオリの混乱を100年も見て見ぬふりでいたよう。

1975年にようやく「ワイタンギ条約」の問題点が再審議され、マオリ語が公用語に加わったり、一部の土地の返還が行われたりしたそうです。

「ワイタンギ条約」が締結された2月6日は新しい国家が生まれた記念の日であるため、ニュージーランドではこの条約の締結日を国民の祝日としていますが、ちょっと複雑な思いをしている人もいるようです。

参考:ニュージーランドで役立つ情報満載の無料メールマガジン|EAST WIND(VOL.142 2013年2月11日)
参考:日刊ニュージーライフ│2月6日のワイタンギ・デーっていったい何の日?


「Toia Mai te Waka Nei」もワイタンギ条約の明るい面にフォーカスしている?

上述の通り、ワイタンギ条約の権利の問題が再審議・改定されたのは反乱が起こってから100年以上経過した1975年のこと。

つまり、ワイタンギ条約締結100周年より後の出来事になるので、「Toia Mai te Waka Nei」のカヌーや歌詞が作られた1940年頃はまだ諸々の問題は未解決だったということになります。

■ワイタンギ条約年表
1840年 締結
1940年 100周年(カヌー完成)
1975年 問題点を再審議・改定
それでもこの曲が民の団結をうたう明るい曲である理由は、どちらかというとイギリスよりの明るい面だけを強調した点にありそうです。

「水岡ゼミ巡検報告」によれば、100周年で作られた戦闘カヌーや展示品には、「ワイタンギ条約の不平等さが語られることはない」と書いてあるんですよね。

このカヌーは、掲示によると、マオリがポリネシアからニュージーランドに来た時に使ったものを再現しているとのことである。

このカヌーを展示することによって、マオリも、大昔は無人島であったはずのニュージーランドへの移住者であり、白人とマオリは同じ客人という立場であるということ、それゆえ、イギリスのニュージーランド支配には正当性がある、ということを暗黙のうちに主張しているのだろう。
―「水岡ゼミ巡検報告」より引用

展示に関しては、ワイタンギ条約の不平等さやマオリの白人に対する闘争はほとんど語られることがない。

英国人の側から見たマオリとの「調和、一体性」だけを演出している。しかし、よく洞察すれば、そこに、イギリス植民地主義の思想の一端がにじみ出てくるのを知ることができる。

この意味で、実際にワイタンギ条約が調印されたこの条約地区は、やはり一見する価値がある場所といえるであろう。
―「水岡ゼミ巡検報告」より引用

なので、この歌「Toia Mai te Waka Nei」もワイタンギ条約の明るい面にフォーカスした流れを汲んでいるのかな、なんて思っています。

今後の課題3つ

…というわけで、「なぜワイタンギ条約100周年の戦闘カヌーの歌なのか」と「なぜ明るい内容の歌詞なのか」自分なりに調べてわかったことを上記に書いてみました。

正直、わからないことはまだまだ山ほどあります。

これから調べたいことをリストアップします。

1.男性パートは何を歌っているのか?

Youtubeで曲名検索をすると、女性が歌い終わったあと男性がラップで登場するバージョンが結構でてきます。

ニュージーランドの勇ましい男性の踊りなので、おそらくハカなのでしょう。

歌詞の内容は調べてもよくわからないので気になります。

2.なぜ大人は踊っていないのか?

またYoutubeで検索した時の話になりますが、検索してでてくる動画のほとんどは、子どもたちが踊っている映像なんですよね。

東京ディズニーランドのポリパラやレインボー・ルアウで演奏される曲は普通、各国のド定番的な曲が選曲されます。

なので、他のポリネシアショーでもプロのダンサーさんによって公演される曲ばかりなのですが、「Toia Mai te Waka Nei」に関しては一般人の子どものお遊戯会的な動画しか出てこない。

プロのダンサーがショーで公演している動画がないのは、政治的要素が絡んでいるからかなー?なんて思っていますが、ならばなぜ、ポリパラで選曲されたのかが謎です。

3.曲のタイトル「カヌーを引く」は「団結する」という意味がある?

最後に、曲のタイトル「Toia Mai te Waka Nei」は「カヌーを引く」という意味があるんですが、その言葉について気になります。

他のニュージーランドの曲で、「Toia Mai te Waka Nei」というフレーズがまるごと歌詞に入っている歌があるんですが、

その歌の解説の中に、「カヌーを引く」という言葉には「一致団結する」という意味を含んでいるという説明があったんです。

1文でさらっとしか書かれていなかったので真偽は不明ですが、「カヌーを引く=一致団結」というのは、ニュージーランドのことわざか何かなのでしょうか。

この言葉についてももっと調べてみたいです。

まとめ

自力で調べてわかったことは以上です。

ニュージーランドの文化や歴史的背景が深すぎて、ただのディズニーオタクのわたしには紐解ける謎ではなさそう…。

政治的知見が絡んでる歌なので、もっと様々な立場から書かれた資料を探して検証していく必要がありそうです。

日本ではほとんど資料がないので、マオリ研究をしている方にこれからお会いできる機会があれば(あるのかわかりませんが…)、ぜひ聞いてみようと思います。

0 コメント:

コメントを投稿